シャトー・オー・バイィ1969

2010年にパリを訪れた時のこと。

バスティーユ広場で毎週開かれている市場を散策しました。

 

その中で出店していたワインショップにふと目を引かれたのは、1本1€と書かれたワインの木箱に無造作に置かれたワインたち。1本3€と書かれた木箱も。

いずれもいわゆるちょっとわけありワインたちで、液漏れがあるものや、ラベルの破損が激しいもの、容量が激しく減っているもの、明らかに色合いが劣化しているものなどなどが大半です。

 

でもラベルやキャップシールの損傷があれど中身さえ飲める状態なら、と掘り出し物を探す人々が真剣な目つきでボトルを一本一本見ていたりします。

 

そんなワインショップなのですが格安木箱ワインとは別に、

棚の上にはこれまたスリリングなワインたちが並べられていました。

その中の1本がこの写真のボルドーワイン。

シャトー・オー・バイィ1969年。

お値段は25€。

 

グラーブ地区ペサック・レオニャンの格付けシャトー。

とても樹齢の高いカベルネ・ソーヴィニヨンの古木を所有しており、

一部は自根であると言われています。

 

もしいわゆる管理のしっかりとしたワインショップで、

ラベルやキャップシールの状態もワインの減りも適度な場合、

まあ、このお値段ではとても買えないワインでしょう。

 

 

「う〜ん。。。。。」

しばし真剣にボトルを眺めて眺めて眺めて。

お店の方が「良いワインだよ!」と薦めてくれますが

もちろん良いワインだけど、良いワインでも状態が良くなくては。

とりあえず目立った損傷や劣化はなさそうに思うのですが、

さすがに25€でまったく飲めませんでした(劣化がひどくて)では、

ちょっと悲しいし。。。

 

でも、まあ、たまにはちょっとした賭けでもしてみよう、

そんな気持ちで購入してきたものでした。

 

帰国後から今日までずっとセラーに寝かしてあり、

時折眺めながら「さてどうなんだろう」と中身に思いを馳せ、

さりとてこんな危険なワインを開けるタイミングというのはなかなか難しいものです。

 

状態がよければ、それは最高のワイン。

特別なときに開けたいけれど、

特別なときだからこそ「開けてみたら飲めたものではなかった」というのは避けたい気もします。

ワイン会も然りで、開けた時の状態に不安があるものを、しかも「良かったらラッキー!」レベルのワインを持ち込むわけにもいきません。

 

まあ、悩んでいても仕方ないので、

開けてみようかな、とふと思い立ったつい先日。

秋の気配に熟成ボルドーが飲みたくなってきたからでしょうか。

 

キャップシールを外し、コルクにソムリエナイフのスクリューを差し込み引き上げ始めると、甘やかな良い香りが!

「これは当たりかもしれない・・・!」

逸る気持ちをぐっと抑えて、抜栓。

さすがに45年目のコルクはだいぶ柔らかくなっていました。

グラスに注ぐとエッジが僅かにオレンジがかった透明感あるガーネットの美しい色合い。まだ生き生きとしています。

 

甘い果実の香りとクラシカルなボルドー左岸らしい爽やかなハーブや草木のニュアンスがあり、味わいも期待を裏切らない素晴らしいものでした。

オフヴィンテージですから決して力強さはないけれど、

繊細で上品な味わいは逆に「ならでは」でしょう。

 

なんだか予期せぬプレゼントをもらったような、

ワインの神様からちょっとご褒美をもらったような

そんなひとときでした。

 

今度またのぞいてみようかな、あのバスティーユ広場の青空市を。

でも欲を出したらダメなんでしょうね、きっと。